用 語 集

吉野クズ

クズの利用は古事記等にも記載が認められる様に、非常に古くから利用価値が認められていた。葛粉の利用は南北朝時代の本県の吉野地方において始まり、本格的な生産は、江戸時代、本県宇陀地方における創業が始まりである。現在でも本県は全国で1,000トンある生産量の40%を占め、天皇御即位式の折に必ず本県の吉野葛を供えるなど、「質・量」共に日本における葛粉生産をリードしている。一方でクズは、風邪薬の葛根湯などの漢方薬にも配合され、その効能はつとに知られている。

 

大和マナ

本県の代表的な伝統野菜の一つで、アブラナ科のツケナ類である。大和マナを含むアブラナ科ツケナ類はユーラシア大陸全体に有史以来の歴史を持ち、我が国にも早くから導入された最古の野菜群である。その過程で優良形質を示すものが各地で選抜されたため、非常に多彩で独特なツケナ類が全国に存在する。中でも大和マナは本県で伝承してきたツケナ類であり、古事記にも記載される「菘」(アオナ)がこれに当たるのかも知れない。
外観は大根の葉に似るが、同じツケナ類のコマツナやシロナと比べると荒々しい外観を持つ。霜に当たる事で甘みを増し、舌の上でとろけるような独特の咀嚼感を持つ様になる特徴を有する。また、ブロッコリー、キャベツ、コマツナ等のアブラナ科野菜で強い抗ガン活性や免疫向上機能等が報告されており、大和マナにおいてもその機能性が期待される。
年間を通じて栽培できるが、生産量はごく僅かで、篤農家により細々と血統が伝えられてきたが、最近、伝統野菜の見直しと共に、栽培が試みられつつある。
おひたし、油いため、油揚げと煮炊き、浅漬け、湯通ししてサラダ、キムチ漬けなどに使え、コマツナやシロナに比べ、独特の甘味があり、浅漬けでは大根葉に似た独特の辛味がある。

 

大和トウキ

セリ科の植物。大和トウキは、北海トウキとともに日本産トウキの基原植物である。大和トウキは、古くから本県に産する優良品とされ、中でも和歌山県境に近い大深地方で生産される「大深トウキ」は、特に珍重されている。わが国のトウキはほとんど国産で占められており、年間約400トン生産されている。大半は、大型で栽培しやすい北海道産の北海トウキが占めているが、品質は「大深トウキ」の方がよいとされる。漢方薬としては主に婦人病に効くとされており、当帰芍薬散、当帰四逆湯などの処方が知られている。

 

大和シャクヤク

シャクヤクは奈良時代に渡来し、室町時代には既に栽培の記録がある薬草で、花の美しさから非常に多くの園芸品種がある。一方薬用品種は、享保年間に自生のヤマシャクヤクとオランダから導入された品種を交配して作り出された「大和シャクヤク」が、最高級品とされている。ただ、この品種は種子繁殖できない特徴があり、ごく一部の篤農家によって栽培が続けられている状況である。漢方210処方中69方に用いられ、葛根湯にも配合されるなど、その需要は大きい。

 

大和茶

我が国における茶栽培は、弘法大師空海が唐より持ち帰った種子を、その高弟賢恵が創建した本県榛原町にある仏隆寺で栽培したのが最初と言われている。本県では古くから仏事とともに茶が親しまれ、茶粥など独特の食べ方が良く知られている。
現在、我が県の年間の茶生産量は、荒茶で約3,000トン、全国6位の規模をもっている。また、茶の健康面における機能性が最近非常に注目を集め、国内外で研究開発が進められている。

 

イソチオシアネート

イソチアン酸のエステルの総称で、R-N=C=Sの基本構造をもつ。いろいろな植物に存在するが、アブラナ科に多く主要な辛み成分である。Rには、脂肪族、芳香族等種々あるが、アリルイソチシアネートは、わさびの根に配糖体として存在し、酵素チオグルコシダーゼ(ミロシナーゼ)の作用でアグリコンのイソチオシアネートとなる。抗炎症作用があると言われている。

 

骨芽細胞

骨原性の未分化間葉系細胞から分化した単核細胞で、主要な骨基質であるコラーゲン産生能の大きい細胞である。骨芽細胞は、骨の表面に一列に並び、1型コラーゲン、オステオカルシン、オステオポンチン、オステオネクチン等の骨基質を産生する。

 

サイトカイン

細胞が産生するたんぱく質の一群でありホルモンに類似するが、サイトカインは主に免疫反応や炎症反応に関わる分子群を指すことが多い。それぞれ固有のレセプターを持つ細胞に対して選択的に機能し、細胞の増殖や分化、さらに種々の生化学的・生理的反応を引き起こす。非常に多様な分子群から構成され、例えば代表的なインターロイキン(IL)だけでも10種類以上知られている。また、異なる複数のサイトカインはお互いの作用を増強あるいは抑制することも知られており、そのネットワークを正確に理解することは非常に困難である。さらに、対象とする細胞の種類によっても、作用の性質や反応が異なることもある。

 

自家不和合性遺伝子

自己の花粉では受精せず、他株の花粉でのみ受精する性質を自家不和合性という。この自家不和合性を支配している遺伝子が自家不和合性遺伝子で、S遺伝子と呼ばれている。現在までにS遺伝子は50以上の種類が見つかっている。S遺伝子型が異なる個体間では交配できるが、S遺伝子型が同じ個体間では交配できない。

 

組織培養

植物はあらゆる組織や細胞から植物体を再生する分化全能性をと呼ばれる能力を有する。
植物ホルモンであるオーキシンやサイトカイニンを組み合わせた条件で植物組織を培養すると脱分化した組織や再分化した植物体が得られるため、この方法は植物体の大量増殖や遺伝子組換え植物の作成に利用されている。

 

多変量解析

多量の観測値からなる多変量のデータを統計数学的手法により解析する手法。主たる解析手法として判別分析、主成分関、階層クラスター分析等がある。

 

熱分解抽出GC/MS

サンプルを熱分解抽出器に投入し、室温~600℃超まで段階的にプログラム加熱し、サンプルから熱抽出される揮発成分並びに、サンプルの熱分解揮発成分を網羅的にGC/MS分析に供する方法。微量サンプル(1mg程度)で分析可能。サンプルの前処理等が不要のため、ハイスループットが可能.条件を検討すれば、フィンガープリンティングの手法として極めて有用である。

 

破骨細胞

造血系幹細胞由来のマクロファージ系の細胞から、骨芽細胞の造る微環境中で、M-CSF、IL-1、IL-6などのサイトカインの存在下、RANKL刺激で分化する、多核の細胞で、唯一石灰化した骨を分解吸収出来る。幼少の成長期を除いて、更年期や老年期以前はこの破骨細胞と骨芽細胞の機能がバランスのとれた状態にあり、骨の恒常性が保たれている。

 

メタボリックプロファイリング

食品や生薬は一般に多成分から形成されており、その機能評価は、医薬品と比べて複雑である。
そこで、食品・生薬製品および、工程中間品の詳細な代謝物(メタボリック)の網羅的解析(プロファイリング)を行い、製品品質との相関を明らかにする。さらに、モデル化、予測システムの構築を行うことで、製造・保管工程の最適化プロセス設計へ応用する。

メタボリックプロファイリング研究のスキーム
①観測サンプル(大和茶・大和トウキなど)を粉砕、抽出などを行いサンプリングする。
②誘導体化・前処理を行う。
③GC/MSなどにより分離・分析。(ピーク同定、クラスター解析、回帰分析/予測モデルなど)
④データ変換
⑤データマイニング(多変量解析)
⑥データマイニング結果と官能試験結果との相関関係を見出すことにより、品質・性能予測、クラス分類のシステム構築を検討する。

 

DNAマーカー

ゲノム DNA のうち他の部分の塩基配列と簡単に区別ができて、染色体上での特定の位置に存在することにより、個体や遺伝子の識別ができる目印のことである。DNAマーカーを用いることにより確実な品種の識別が可能になる。

 

DNAマイクロアレイ

スライドグラスやシリコン基盤上に数千から数万個のDNA配列断片を整列させ、固定化すること。サンプルの細胞と対象の組織細胞から別々にmRNAを抽出して、このRNAを別々の蛍光色素で標識し、cDNA(mRNAと相補的な塩基配列を持つDNA)を合成する。これらの標識化されたcDNAを混合してスライドグラス上にスッポトして、固定化された遺伝子と結合させる操作(ハイブルダイゼーション)を用いて、遺伝子の発現量の比を検出する。

 

FT-NMR(フーリエ変換核磁気共鳴分光分析)

原子の核磁気共鳴を用いて分子の構造を調べる分析方法。核スピンを有する原子が観測対象となる。通常、1H-NMRと13C-NMRが有機化合物の構造解析に用いられる。インパルス(パルス状電磁波)を試料に照射して全ての核を一斉に励起し、その結果生じる自由誘導減衰(Free Induction Decay、FID)を測定し、それをフーリエ変換し、NMRスペクトルを得る。シグナルの化学シフトと積分値が情報となる。感度が悪いことが欠点。

 

GC/MS(ガスクロマトグラフ質量分析)

ガスクロマトグラフィー分析を行い、カラム出口にインターフェースを介して質量分析を行う分析方法。通常、ピークキャパシティーに優れる、キャピラリーガスクロマトグラフィーを分離手段として用いる。質量分析は、イオン化法として定量性に優れた電子衝撃法(EI法)を用い、高速スキャン可能で情報処理能力に優れた飛行時間型(Time of Flight)を用いることが多い。カラム保持時間と質量分析値が情報となる。メタボリックプロファイリングにおける重要分析手法の一つ。

 

NIR(近赤外分光分析)

近赤外光(800nm~2500nm)の波長域の吸収、反射、発光分光分析。近赤外光は、物質透過能に優れるため、非破壊、非侵襲分析法として注目されている。固形サンプルから含水液体サンプルまで観測可能であるため、食品分析にも応用可能。多波長の吸収/反射率パターン解析から微細な差を調べることができる。FT-NIRとは、連続光を照射し観測された干渉パターン(インターフェログラム)をフーリエ変換し、波数(波長)における吸収率あるいは反射率を情報として得る方法であり、高速高精度で分析結果が得られる。

 

RANKL

Receptor activator of NF-kappa B-ligandの略でサイトカイン(前述)の1種。1998年、滑膜内で破骨細胞形成を促す分子として発見された。免疫系細胞のT細胞などに存在し、骨破壊を促進する内生因子として知られている。RANKLは、その受容体RANKに結合するとMAPキナーゼなどのセカンドメッセンジャーの活性化を通して、NF-κBやAP-1などの転写因子を活性化する。この一連のシグナル伝達は骨破壊に関わる破骨細胞の分化に必須であることからいずれかの点でRANKLの作用を遮断できれば、関節リウマチや骨粗鬆症など、骨破壊が関与する疾病が予防・治療できる可能性がある。

 

RAPDマーカー(random amplified polymorphic DNA marker)

10塩基程度の任意配列DNAをプライマーに用い、PCRを行ってDNAを増幅する。ゲノムDNAの塩基配列に個体間差が存在する場合、DNAバンドの大きさが異なるので、DNAのバンドパターンを検出して解析する。特異的な多型バンドについて調査して、有用形質と同じ動きをするバンドであれば、遺伝子マーカーとしての利用が可能となる。この遺伝子マーカーのことをRAPDマーカーと呼び、このマーカーを用いることによって育種を効率よく行うことができる。

 

STS化(sequence tagged site)

有用形質に連鎖するRAPDマーカーを開発した場合、用いるプライマーが10塩基程度なので幾本かのDNAバンドが出現し、その中の一つのバンドが多型を示す。多型バンドは、ゲノムDNAの精製度などの原因でバンドの出現が不安定になることが多い。STS化とは、多型バンドのDNAの塩基配列を決定することで、決定した塩基配列を元にしたSTS化プライマーを用いてPCRを行うことによって、特異性を高め、検出効率を高めることができる。